夜の闇が人を優しく包む

吉田 馨 Kaoru Yoshida

京都映画祭実行委員会事務局プロデューサー

大阪市のGALLERY AMI&KANOKO(06-6214-2595)において「西村のんき展 のんきの戒壇めぐり」が開催されている(4月9日まで)。

「本名のときは、ごつごつした感じが勝つ作風でしたが、のんきを名のった頃から、大らかな力強さが加わったように思います」と、ギャラリーオーナーの中島由記子さん。

GALLERY AMI&KANOKOは日本橋のど真ん中、古い町家を改築した。会場は二階。わが家みたいな階段をトントン上がると、右手に真っ暗な通路が口をあけていた。いつもは普通の和室なのに、なんやこれは?

「勇気を出して、もうちょっと進んでください」と、案内役ののんきさん。天井が低い。立って歩けない。中腰で進むと、ぼんやりと光が。闇に目が慣れはじめた。

「戒壇めぐり」という名のとおり、6畳の和室いっぱいに、大きくて薄暗いお寺みたいな迷路が作られている。建てるのに丸2日。素材は、一間ほどの大きさの洋紙52枚と、150㎝×10mのロール紙2本。ここに線画が描かれている。

迷路の闇は意図して作った。絵を裏表に二重に張り合わせ、この二重の絵で、天井と壁を造形。二枚の絵は密着させず、2㎝ぐらいの隙間をもたせ、絵の上に、黒い糸で編んだ網までかぶせてある。隙間と網が、濡れ縁の窓からだけさしている光を弱め、結果、闇を深くする。照明はない。

のんきさんはいう「ここに座って、絵って何やろうって考えています。考える時は少し暗いほうがいい。小さい頃に行ったお寺みたいに。みなさんもこの迷路で、ぼんやり考えてほしい」。参加型の展覧会で、ぼんやりしてほしいとはユニーク。「のんき」と改名したのも、ごもっともという気になる。

木田光重キャメラマンが、特別にライトをあててくれた。赤、黄、緑のアクリル絵の具による線画が、大胆に躍動している。龍が描かれているそうな。

光を、わずかに反射する絵がある。金箔と銀箔を使い、ろうけつ染の手法を応用した。迷路の終点は、ほのかに明るい。そこだけ覆いがないからだ。足元の小さな台に乗ると、迷路の天井が見下ろせた。アフリカの大地のように骨ぶとい、鮮やかなアクリル線画。周囲には、蛙、虎、蓮、竹などを描いた軸ものが7つ。みな、お寺を想起させる絵ばかり。

たそがれ。闇の迷路にしばらく座っていた。迷路の光が、黄色からオレンジ色に変化していく。光は、時間や天気で刻々とかわり、建てこみや展示空間によっても異なる。同じ空間に身をおくことは二度とない。この頃になると、迷路の「迷」の観念が取りのぞかれ、静かな空間で、深呼吸をするように気持が落ち着いていくのがわかる。

タシケント・ビエンナーレでは2位(2009年)。この時は迷路を屋外に作った。「直射日光の下で強い色がむき出しになり、子どもが笑顔で歩き回っていました。闇の中での展覧会とまったく別の雰囲気です」と木田キャメラマン。

泥くささが、ないとはいえない。けれど地に足がついている。おどろおどろしさと同時に安定感がある。肌あいが優しい。包容力がある。「そこにいるわたくし」が豊かに受けとめられている。闇の迷路の居心地のよさは、ここからくる。