あたたかい空間

根来由紀 YUKI NEGORO

大阪大学文学部美学専攻3回

Gallery Ami Kanokoの二階、風情ある6畳の和室に点々と配置された陶芸作品の数々。パステルカラーの彩が美しい作品たちは、しっとりとした畳の上、真昼の日差しを浴びた縁側、はたまた洗面所の硬質なタイルの上で、静かな生気を纏いながらひっそりと佇んでいる。作品と展示空間両者がお互いを引き立て合い、まったりとした居心地のよい空気感を呼んでいる。この和室と作品のこっくりとした一体感は、ここが雑多で喧騒な市街の印象が強い大阪ミナミの中心部だということを忘れさせてくれる。

ともすかたち、うけとめるかたち、つつむかたち、といったやわらかな題名が付けられた作品の数々は、「この形はきっとあれを表現しているのだろう。」などと、鑑賞者が作品の持つ形が何を意味しているのか即座に理解できるような形をしていない。丸く尖っていたり、ひだのように波打った形状をするものもあれば、ゆったりとした曲線美を持つものもあったりと様々である。包み込むような優美なラインからは温かい女性的な印象を受けるが、形を見て具体的な物体を想像するのは難しく、作者の心象イメージが織り成した抽象的なものを表現しているかのように見える。

一方で、形がとらえどころのない抽象的な曲線を描いているのとは違い、絵付けされた模様はドット、ボーダーなどのハッキリとした幾何学文様が多く、柔らかな曲線形を引き締めている。もし模様も波打った曲線だったら作品がうるさくなってしまっただろう。陶器の上に配置されたデザイン的な幾何学模様が作品を凝縮し、より洗練されたものへと引き上げていくように感じられるのである。

これらの大小様々な陶芸作品の数々は、その多くがパステルカラーで彩色されており、高明度な色味を放っているのが特徴的である。明度の高いイエロー、ブルー、レッド、オレンジは作品に明るく軽やかなイメージを与え、落とせばガチャン、と高い音で割れてしまいそうな陶器の危なげな硬質感をまるで忘れさせてしまう。同時に、温かみの感じられる優美で女性的な形は、春めいた柔らかい印象をも見るものに与えるのだ。この陶器に抱く先入観とのズレが面白く、見るものを作品世界へとぐっと引き込んでゆく。素焼きのざらりとしたテクスチャーに、春の日差しを思い出させるかのような優しい色合いが加わり、今まで感じたことのないまろやかな陶器の世界が創りだされているのである。

 

こういった作品は一体どういった着想を経て作られているのだろうか。作家の植田氏はこう語る。「形のイメージははっきりとあり、彫刻とは違い、削り取るのではなく内から作り出していく。念のような、自分の中にあるものを創造していく。」土をこね、継ぎ足していくように中から作り上げていくという物理的な内面からのアプローチ、そして念をこめるという精神的な面の内面的アプローチの両方が形として結実し、確かな実体を持った作品として現出していると言えるだろう。同時に氏は、作品はコントロールするものとは思っていないとも言う。完全にコントロールできないからこそ制作を続けるのだと。

自分でもどういった作品になるのかわからない、もしかしたら新たな内面や方向性が見えてくるかもしれない、そういった作り出す者の焦りのない、豊かで穏やかな創造性が温もりあるかたち、様々な角度からじっくり眺めて一緒に時を過ごしたくなるような作品を作り出しているのである。