「一枚の版画との出会い」

2014.12.08 - 2014.12.13 [ 1F Ami ]

加藤秀樹
[木版画]

私は1977年,名古屋芸術大学彫刻科を卒業した後,小・中学校の教職をする傍ら油彩で人物を中心に描いていました。油彩で描いた作品を市民絵画展や教員仲間のグループ展に出品したこともありましたが,人物や静物,風景を楽しみながら描く程度のものでした。

油彩画の描き始めは,乾いた白いキャンバスに筆を走らせるとまるでコンテで人物クロッキーをしているようにサラサラとした感触に心地良さを味わうことができます。しかし,描き進んでいくうちに油絵の具の艶やベタついいたマチェールが気になり出し,描くのを諦め,すべて消してしまったり,画面全体を一色で塗り潰したりすることもしばしばありました。「そろそろここらで油彩画はやめてみようかな」また「もっと夢中になれるものってないかな」などと考えていると,大学時代,彫刻制作で来る日も来る日も夢中になって粘土と格闘した日々のことが浮かんできてました。さすがにもう一度彫刻を始めるとなると何かと場所のこと等があり,なかなか難しいけど「大学時代のようにわくわくする造形活動がしたい」などと,いつも思っていました。

その頃,ある中学校に勤務していたときですが,先輩の美術教員が職場で木版画をする姿を見て「おもしろそうだ。私もやってみよう。」と考え,気軽な気持ちで始めたのが多色木版画でした。木版画を始めた頃は,浮世絵の役者絵や美人画を真似て娘の肖像や裸婦を多色版画にしていました。木版画では,下絵・色分解・転写・彫り・摺りといったような行程を計画的に展開していく必要があります。順を追ってすこしずつ形になっていく楽しみや摺り上がりのわくわくする期待感を味わいながら制作でき,結構はまっていきました。

木版画を始めて1年ぐらい経った頃,私を木版画の道へと進める決定的な出来事がありました。1990年頃でしたか,大好きな作家の作品展が名古屋のデパートで開催されていることを知り,どうしてもみたくて,早めに仕事を切り上げ,一刻も早くみたいという焦る気持ちを抑えながら出かけていきました。展示されていた作品はパステル風のリトグラフ(石版)や木彫りの彫刻がほとんどでしたが,その中で一点だけ「雲のアルルカン」というピエロを描いた多色摺りの木版画が展示されていました。私は多色摺りの版画というと浮世絵のイメージしかもっておらず,この作品のように青・黄・赤の三つの版が絶妙に重なり合い,しかも浮世絵にはない丸刀や三角刀・切り出し刀の跡が荒彫りの木彫のように残り「木版画ってこんなに美しいものなんだ!」そして,「どうやったらこんな美しい版画ができるんだろう」と考えながら,私はこの作品の前でまるで時を忘れたかのように暫く動くことができませんでした。 縦30cm.横20cmにも満たない小さな一枚の版画にこれ程心動かされたことは後にも先にもないものです。この一枚の木版画との出会いよって,「これからは,私も人を感動させる美しい木版画をつくっていきたい」という一筋の光が芽生えたきっかけになりました。その後,風景,人物,花,抽象…と,題材や表現方法はどんどん変わっていきましたが,この一枚の木版画から受けた感動は28年経った現在も少しも衰えていません。


加藤秀樹

略歴

1955 愛知県生まれ。
1977 名古屋芸術大学美術学部彫刻科卒業
1984  版画を始める。
1993 日本版画会展初入選
1997 飛騨高山木版画ビエンナーレ展初入選
1999 春陽展版画部門初入選
2013  飛騨高山木版画ビエンナーレ展奨励賞
1995~2013 個展 : 画廊編    じんがら画廊(愛知)  画廊ギャルリ・ディマージュ等(愛知)などで開催
2014 個展 画廊 編  ぎゃらり かのこ(大阪/日本橋)

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